急に静かになった広間は私とブラックしかいない。
私は座布団の上で正座していた足を何となくそろえ直した。
10畳ほどの、二人で食事するには広すぎる空間には、木製の低いテーブルと妙な掛け軸、開ければ庭が見える障子は固く閉じられている。
何となくソワソワした。
こんなにテーブルも広いのに、ご飯を作ってくれる人とか部屋のお掃除をしてくれる人は、別の時間に食事を取るらしく誰かが入ってくるわけでもない。
私がなんて返そうか迷っていると、ブラックは顔をあげ薄茶の宝石のような目をこちらに投げた。
「申し訳ありません」
「え?なんで?」
「困らせてしまったようでしたので」
淡々と食事は進んだが、口にした食べ物は殆ど味がしなかった。
不味いとか、そんなんじゃない。
昔の事を話しても顔色一つ変えなかったブラックが、私に謝る時だけ一瞬表情を曇らせたからだ。
――…変
困らせたって思うってことは、それなりに自分の中で何か感じる部分があるって事じゃないだろうか。
「ねぇねぇブラック」
「はい」
「趣味は?」
「…。特にありません」
MUSYUMI!
「え、えーっと…、あれ読書とか…」
「読みはしますが、特に好きというわけではないですね」
「と、得意料理は?」
「基本的に要望があれば何でも作りますよ」
「…!」
この人…、全然人間らしくない…!
魚を綺麗に食べる人は尊敬に値すると思う。
骨だけになったブラックの焼き魚を見ながらも、私は衝撃で箸に掴んだままだった白身をご飯の上に落とした。
「私は食事が終わりましたので湯を焚いてきます。30分後には入れるようにしておきますので」
「まままま、待って!」
全て空になった膳を持ち上げ立ち上がったブラックがゆっくり振り返る。
ああああ!特に考えてなかった!
とりあえず、人間らしくないっていうかちょっと執事すぎるっていうか…だから年上らしく!
「風呂!お先にどうぞ…」