私は、昨日の帰りから今日までの出来事を隅から隅まで要冬真に打ち明けた。

その間、何人もの人が私達を物珍しげに振り返っていったが特に気にするわけでもない。

多分、牽制しあっていた二人が喧嘩をせず普通に話しているのに驚いたんだと思う。


大人しく耳を傾けていた彼は、一瞬悩んだ顔をした後マジマジと私を見下ろした。



視線が絡まり、心臓が飛び跳ねる。



「お前…、あいつと一緒に寝たのか」




「…は?」




食いつく所そこ?
どっちかって言うとブラックの姑レベルについて論議したかったんだけど…。


「いやいや、寝てないよ、ブラックは起きてたし」



私も一時間しか寝てないし、と言おうと口を開いた瞬間、頭を勢いよく叩かれ舌を噛みそうになった。


「ちょっ…痛い!」


理不尽!
叩かれる理由が謎!ミステリー!


「うるせー、それより…」


「それより!?」



叩いた事についてコメントはスルーですか!?



「お前の父親と升条の関係なんだが――…」



「鈴夏様」



要冬真の言葉を遮るように聞こえた声は、彼特有の囀るような奇麗で色気のあるそれだった。




「お迎えにあがりました」




振り返ると、昇降口入り口に立つのはなぜか着物姿のブラック。




「え、なんで?スーツは?」


「昨夜“着物にしろ”と申されましたので」


「そうだっけ?」





ーー…だいたい!なんでスーツなわけ、せめて着物的な何かにして!





「あ、言ったわ」



何を言っても教えてくれないブラックにシビレを切らして適当な文句を言った気がする。
しかし、それを素直に実行するとは…なんてこと。
戸惑いを感じるわ。



「おい」



私の後ろに立っていた要冬真が、非常に不機嫌な声を上げた。
たった二文字の母音なのになんでこんなに威圧感があるんだろうか。

彼の眉間には、シワが三本はある。
その視線はまっすぐブラックを睨みつけていて威嚇しているような印象を受けた。
ブラックと要冬真。

表情は、全くの真逆である。