そんな感じで部屋に押し入って私を布団に寝かせ、隣で読み始めたのは聖書だった。

私は内容に耳も傾けず今の状況を理解しようと説明を何度も求めたが、「私が言う事ではない」と答える様子は全くない。



気付けば日が昇っていた。




何も教えてくれないブラック。


解る事は二つ、升条と、親父。



『俺はなぁ、お前を立派なお嬢さんに…』



初めてこの学校に来た時言った親父の言葉。
まさかそれを実行する気なんじゃないだろうか。
とりあえず、姑のごとく攻めてくる鉄仮面執事と生活するのは、正直ゴメンである。



今日実家帰るか…。




とにかく、聞いてみないと始まらない。


終業のチャイムが鳴り、立ち上がって一番に教室を出た。
早く行かなければ村行きのバスが無くなってしまう。
大股で廊下を歩き、人が疎らな階段を下り、昇降口へ向かった。

外の気温で暖まった空気がクーラーの風と混ざり合って気持ち悪い。
残暑はいい加減に去るべきだと思う。



「鈴夏」



下駄箱に上履きを入れ、ローファーをコンクリートの上に落とした所で、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

あーもう、いちいちドキドキするんじゃないよ私!
心臓に毛を生やせ!


平然を装って振り返ろうとすると、鞄も何も持たない長い腕が、私の手首を掴んだ。

繋がれた所からどんどん熱を帯びていくのが解る。



「何帰ろうとしてんだよ」


「は?」


「今日は生徒会の集まりだが」


「あ…」



忘れてた。



「み、見逃して!」


「はぁ?」


眉をひそめて私の腕を離し腕を組んだ要冬真は、厳しい眼力をこちらに送っている。


「昨日の執事!親父が知ってるかもしれないの」



負けじと訴えるように彼を見上げると、少し眉間のシワが元に戻った。
やった!あと一息!


「どういうことだ?」



「なんか、あの人升条って家の執事みたい。親父の名前知ってて、私は升条さん別邸で嫁対姑の戦いを…」



「まとめすぎてわかんねぇ、きちんと話せ」