でも、少し嬉しかった。
少し近くなった気がして。


名前を呼ばれただけなのに、こんな特別に思うなんてちょっと自分は可笑しくなってしまったのかもしれない。




「なんかわかったら教えろよ」




そう一言付け加えて、彼は教室から出て行った。

目だけで見送り、私が弁当に向き直ると横から視線を感じたので振り向きざまにその視線の主に鉄槌を食らわせる。



「痛い!なにすんの!」



「うっさい!なんか生暖かい目でこっち見てただろ確認しなくてもわかったわ!」


「えー!だってー…とうまもリンも変わったなぁって」



ハルはまた性懲りもなく数が倍になった自分のミニトマトを私の弁当に移動させて、上目遣いで此方を見上げた。




「とうまはね、なんか昔に戻ったって感じ!」



「昔?」



「うん!優しいオーラがいっぱい!」



ミニトマトが帰ってこない事が嬉しかったのか、上機嫌で箸を手に取ったハルはさらに続ける。



「リンはね、なんか女の子っぽくなったよ!」




女…!?




「?どうしたの?そんなムンクみたいな顔して」




女?
もう一度言うけど、女?

いやいや私は元々女だろ、違う多分そういう事じゃない!



不思議そうに私を見ているハルは、大丈夫?と珍しく労いの言葉をかけているがそんな事も気にならない。



「言葉遣いも、昔の方が乱暴だったしさぁ」



間延びした声が少しざわついた教室の中に消えていった。


強さが全てだった昔は女扱いされるのが嫌だったが、今はどうだろう。
嫌じゃない。




――…俺様を全力で愛してみろ



「…はっ!」




「どしたの?」




私は手に持ったミニトマトを、机の上に落としてしまった。



まさか…。




生徒会長と書記というビジネス上の関係にも関わらず。





要冬真の事―――…



「鈴夏さん?」



弁当を持ってやってきた彩賀さんの声に、脳裏に過ぎった嫌な想像を打ち消し慌てて箸を握り直した。