ここに来る度、母は死んだと思い知らされる。

そして私は生きていると。




「私が殺したの」



硬く鋭い自分の言葉が、刺し古した体の真ん中に新しい傷を作る。

要冬真は、途中立ち寄った花屋で買った小さな花を挿してからその墓前で手を合わせた。
それからゆっくり手を下ろし、墓石から目も離さずポツリと言葉を落とす。



「本当に、そう思ってるのか?」



見られていない、というのが余計に私の恐怖心を扇いだ。
この人は知っている、そう気付くのに時間はかからず一瞬で自分の顔が歪んだのが手に取るように分かる。
頭に血が上り何を言いたいのか脳が理解しなくなっていた。



「思ってるよ」



追いかけられるような鼓動の速さに、私はなるべ平常心を保ちながら喉から言葉を搾り出す。
そういう風に制限しないと、溜めてきたものが全部吐き出てしまいそうだった。


「母さんは私を産む代わりに死んだんだ、“殺した”以外の表現が見つからない」


冷たい風が誰も居ない墓地を走り抜け雲を押す。
そんな日の当たる風景なのに、私は目の前が真っ暗で何も見えなかった。



「お前は弱いな」


「弱くない!!」


「弱いから許せないんだろ、自分を。そうやってご丁寧に理由までつけて」



目の奥で、親父の顔が過ぎった。


「許すとか、許さないとかじゃないよ。親父が唯一愛した母さんを、奪ったんだから。だから――…」



「だから、誰にも愛されちゃいけない――…ってか?」



思いがけない重みのある声に、私は顔を上げた。
要冬真は、腕を組みやはりこちらを見ようとはしない。
彼はどんな思いで母さんを見ているのだろう。

その瞳に怒りを感じ、苦しい胸元を誤魔化すように息を吸った。





「親父さんが、母親をどれだけ愛してたかなんて知らねえ。ただ母親が何故命をかけてまでお前を産もうとしたか、親父さんがお前を産むことを承諾したか、考えればすぐ分かるだろ?いや、解ってるはずだ。お前なら」




解ってる。
母さんが、私を想って選択した決断だったことを。