JRから私鉄に乗り換え15分、最寄り駅を出てバスに乗り換え5分。

空は雲一つなく、太陽がジリジリ照りつけてくるが何故か不快感はない。

舗装されていない砂利道の先に、古びた木製の看板が見えた。
蔦が登っておりペンキも所々剥げている。
金白村、と書かれた字体はちょっと怖い。


「ついたよ」


「ついたってお前、木しかねーぞ。木に住んでるのかお前ら」


「違うし、よく見て!あそこに学校あるでしょ!」


指差す先には、小さいが古びた懐かしの母校と小さな林が見える。




「学校?あんな小さかったら生徒が入らないだろうが」


お前らは巨人か!!




「入るわ!手始めに私の母校に連れていきます」


坊ちゃまめ!!
金一高の生徒数なめるな!各学年80人だよ!意外に栄えてんだよ!

私の後に続く要冬真が、小さく笑ったような気がして立ち止まり振り返ると、見下ろしたヤツの視線が絡まった。


その瞳があまりにも優しくて、不意な笑顔が自分に初めて向けられた気がして、本当に息が止まる。

“なに笑ってんのよ”と言う言葉が喉に詰まったのだ。


私が面を食らった顔をしていたのだろう、要冬真は2・3度瞬きをした後、数歩分離れていた距離を一瞬で縮め私の眉間を優しい力で小突いた。



「変な顔」



「…う」




だって、あんたがすごく柔らかく笑うから。
海ちゃんに向けるような、いや、それよりもっと…。



「なんで下向いてんだよ」



「い、いいじゃん!行くよ!」


絶対私、顔真っ赤だ。
不思議そうにかけられた言葉を半ば遮るような形で踵を返し、私はヤツから距離を取るために走り出す。

歩きづらい砂利道だろうが、サンダルだろうが関係ない。

暑い。
太陽がじゃなくて体の内が。


どんどん速度を上げ、心拍数がそれと同じになるように誤魔化して。





「早く来なさいよー!!!」





緊張感も焦燥感も投げ出して、ゆっくり歩いてくる彼を急かすように出来るだけ大きく叫んだ。




「お前どんだけ早いんだよ、足改造されてんじゃねーのか」