いくら暗くても遠くまで真っ直ぐに続いていた街灯が、途中で切れている。


私はそれが、先に道がない事を示す大事なヒントだと気付いた時にはすでに手遅れで、方向転換する横道もなくなり迫ってくる壁に目が痛くなった。



やばい…!逃げ道ねー!



両脇には中に入れる気配もない家、天井まで積み上がったレンガ。
脇に置かれた沢山の樽は無造作に転がっている。




――…しょうがない、屋根だ!




樽から樽へ、人一人乗ってもびくともしない為登りやすい。
半分辺りまで差し掛かった所で、下を見下ろすと追いかけてきた人達が下でワラワラ集まってきている。


すると、スカートのポケットが小さく振動した。

中に入っているのは携帯電話。
数回で止まるかと思いきや、しつこく嫌な音を出している。

私は登る手は休めずにポケットへ乱暴に手を突っ込み、未だに鳴り続けるそれを取り上げ画面も見ずに通話ボタンを押した。


『リンー?今なにしてる?おれの作品見に来てよー!』



――…この声は…



「ハルか、ちょっと今忙しいんだけど。何の作品よ」




『おれの園芸部の作品』



「え!あんた園芸部なの?」



『そだよー!だから見に来てー!忙しいって何忙しいの?』



「いや、ロンドンの街で追われる怪盗21面相の役」



『怪盗21面相って何?』



「よくわかんないけど、怪人20面相のオマージュじゃない?」



『えーなんでロンドンにいんの?』


「知らない、シャーロックホームズの敵とか?」


『怪人20面相の敵は明智だもん』


「…、え?そうなの?」




『シャーロックホームズは、ルパンじゃない?』


ルパン?
ルパン三世?マジで?


「へぇ、知らなかった…、げ!」



『えー、どしたの?』




屋根に手が届く位置にやってきたので、自力でよじ登り下をのぞき込むと、後を追ってきていた男の一人が樽に足を掛けたところだった。



「ギャァァア!ダメ!無理!くんな!…あぁ、ハル悪いけどもう切るから、じゃあね!!」



逃げろ!