HAHAHA!

私の俊足に適う者はいない!
衣装が特徴的で目立っていることと、ロンドン警察(葵)からもたらされた“かなり凶暴”というヒントは、捕まえる側に一瞬でバレたらしく。



死界になった大通りで足音と共に聞こえてくるのは、今回3Aの仁東さんらしいよ、えー捕まえるの難しそー!と言う女子の声。


この空間が、緻密に街を表現しているので幸いにも小さな裏道や街灯の少ない細い道、身を潜める事が出来るゴミ箱があり助かっている。
私は細い道に息を潜め、人が通り過ぎたのを耳で確認してため息をついた。


そもそも“怪人20面相”が、こんな目立つ格好で歩いてるわけないし!

いや、今の設定は“怪盗21面相”だけどさ。オマージュなんだけどさ。
だいたいなんで速攻で実名バレてるわけ?しかも“凶暴”というキーワード一つで!



ふっ…、私、有名人…




て違う!



一人でツッコミとかしてる場合じゃない。
嫌な噂の広がり方だなホント。だから友達も――…




『あおいくんちってね、おうちのひと、すごーく怖いんだって。だからすずちゃん、あんまり、お話しないほうがいーと思うよ』





不意に過ぎった、顔も解らぬクラスメート。


そういえば幼稚園の頃、葵は尾ひれのついた噂のせいでいつも一人で座っていた。

そんな彼を見て、話し掛けた私への言葉。
彼女からしてみれば、私の事を心配してくれたのかもしれない。
でも正直、当時の彼は怖そうな感じではなかったからそんな事どうでも良かった。
葵は、人より少し不器用なだけだったから。

話せば普通に返してくれるし、別に怖くもない。
私より小さい体で女の子みたいな彼。

仲良くなるのに時間はかからなかった。



――…そして、小さな小さな事件が起きる



ある朝飼育小屋のウサギが、無惨な死体で発見された。

先日、餌を与えていた葵が何故か真っ先に疑われ、その理由は何とも安易で“ウサギに指を噛まれた事を、彼の親が怒って懲らしめにきたのではないか”というもの。


確かに彼の人差し指には、控え目に絆創膏が巻かれていた。