「春です。まぁ馬鹿というか後先考えないと言うか…、大降りの雨の中飛び出しますか普通」



「あ、まぁ…探すの必死だったと言うかなんというか…」


ハル、ころす!


バカにされると思ってたからこの人には知られたくなかったのに。



目線を泳がせ、しどろもどろになる私を見下ろして、久遠寺くんが溜め息をついたのが分かった。

呆れてる…!
絶対呆れてる…!


体より頭が働くタイプの人間である久遠寺くんには理解出来ないのだろう。
様々なパターンや可能性を分析して、一番効率的な答えを出す、私とは正反対の性格なのだから、当然と言えば当然だが。


「でも…」


久遠寺くんの優しい響きに、思わず顔を上げる。


「まぁアナタなりに、彼の事を考えて行動したんですものね」


私の頭に巻かれたスカーフの上から、大きな手のひらが置かれた。
なんだ、誉められてるのかな?
久遠寺くんと言えば、口元だけで笑って此方を見下ろしている。


妙な気分だ。


彼の表情がいつもより柔らかいからだろうか。
くすぐったい。


「久遠寺くん」


私は無意識に、彼の名前を呼んでいた。


「そういえば昔、運命の話しましたよね?」


ゆっくり頭から離れていく手を追いながら、浴衣から覗く胸元を見上げると下品過ぎず真面目過ぎず、ゆったりと開いたそれが目に入った。

当然振られた話題に回転の遅い頭をフル回転させ過去を遡る。

「あぁ、“ロミオとジュリエット”の時?」



“運命”を信じるか否か。
レールの上に用意された結婚の話。
彼には、そんな婚約者が居る。



「鈴夏さんの言う通りになりましたよ」


その発言に、思わず首を傾げた。
すると助言するかのような優しい表情で、久遠寺くんは改めて私を見る。


「好きになったら“運命”。私は、それを少しだけバカにしてたんですけどね」


『好きになったら運命!そうじゃないなら試練と見做す!』



「どうやら、良い方向に傾きそうなんです」


「それって、相手を好きになったって事?」


「まぁ、そうですね」