幼なじみ特有の、さして意味がない独占欲。
“あの”葵が、私の事を好きだなんて考えられない。
彼からすれば、私は玩具なのだ。
昨日のあの事件だって、生徒会室に人が入ってくるタイミングであんなことしたに決まってる。
よりによって、相手は要冬真。
私が仕事サボってイチャこいてたと思われただろーがぁぁあ!
ほらみろ!その怒りを引きずっての今日の吹雪を!
黒い後頭部を中心に渦をまいて放たれる絶対零度の冷気は教室中を恐怖に陥れている。
私のせいだよね!?
いや、でも家に帰ってそれを上回る何かがヤツの身に起きたのかも…。
ギャー!
こっち見た!!!
ガッツリガン見だよ冷徹ビームだよ眉間にシワ寄ってるよ!
私の心の声が聞こえていたかのような絶妙なタイミングで、感じた視線。
間違いなく要冬真のもので、刺すように注がれたそれを避ける技量はない。
視線が重なった瞬間、体が自動的に数ミリ飛び上がり跳ね上がる左胸を押さえてすかさず視線を真横に逸らす。
すると、肘をついてこちらを見る嬉しそうにシワを寄せたハルの目元に目が入った。
「ユッキーに聞いたよぉ」
残念ながら性格のひん曲がった私から見ればいらやしく三日月型に歪んだ両目は人の不幸を喜んでいるようにしか見えず、寝癖で跳ねた天辺の髪の毛を潰すように叩いてやる。
「いたい!リンひどい!」
「なに嬉しそうにしてんだ腹立つ!」
「だぁってー、とうま面白い」
歯を出して、より一層細めた目から状況を楽しんでいるのは明らかだ。
お冠の今のヤツに面と向かって言ったら容赦ない制裁が加わるだろう。
お前は一度懲らしめられろ!
そんな下らない話をしていたら、黒板前の電波時計の長針が逆さをさし、同時にスピーカーからチャイムが鳴り響いた。
本来ならば先生が来て授業開始なのだが、今日から一週間、その地獄の瞬間が無くなるので小躍りしたいほど嬉しい。
チャイムに合わせて、要冬真の吹雪に気を押されながらも委員長は何とか腰を上げて、教壇に立った。


