優しいんだ。
何だかんだで、視野の広いこの男は少し口は悪くとも助けてくれたり言葉をかけてくれたりしている。
私の周りは、結構そういう人が多いみたい。
要冬真だって、久遠寺くんだって、ハルだって彩賀さんだってユキ君だって右京だって。
『キスして、ごめんな』
「あー!!!!」
大事な事を、忘れてた。
彼の口から出た、“桐蒲葵”という名前。
同姓同名の赤の他人だとすれば、名前が呪われていると思った方が良い。
私の知っている桐蒲葵なら、“キスしてこい写真取って校内掲示板に貼るから”と言う、間違いなく言う。
嫌がらせに命をかけ、私のファーストキスを奪い、私が一度も喧嘩に勝てなかった男。
“金一高伝説のNo.1・桐蒲葵”
ちなみに金一高というのは金白第一高校のこと。
私が三年間No.2だったのは葵が居たからだった。
2年生になり引っ越したが、余りの強さに私達の学年で『No.1の亡霊』として崇められた伝説の男だ。
私は全然崇めてないが。
「なんだお前、急に大声出して」
目を丸くして見下ろす要冬真を見上げ、私は立ち上がりヤツが座るソファーに飛び込む。
「H組の、桐蒲葵って!?」
ズイッと詰め寄るように顔を近付けると、ヤツは嫌そうな顔をしながら私の頭を掴んで遠退けた。
仕方なく離れてソファーに大人しく収まると、安心したようなため息をついて背もたれに体を預ける。
「桐蒲って、技術学芸会実行委員長だろ。お前お礼行ってねーなさては」
委員長…!?
『委員長が異例の10分休憩を入れてくださったんですよ』
『春、桐蒲にサルは捕まったって連絡しとけ』
「ギャァァァ!!」
「なんだよ」
「イヤイヤイヤダ!あいつ嫌い!」
「?」
まさか…!
ロミオとジュリエットの時の暗闇事件も、あいつが手ぐすね引いてたんじゃ…。
あり得る。
あり得すぎて逆にコエェェ!
辻褄合いすぎてコエェェ!!


