「なんでびしょ濡れなんだよ」



「あ、雨が…降ったからです」


「あいつと一緒にか」


「いやあの、…なんて説明したらいいのか」



「説明してみろ」


「え?」


「俺様が納得するように説明してみろ」




何故。
何故私は怒られてるんだ。


時は二時間前。



桐蒲葵、と言う名前を聞いて唖然とする私の背後に冷ややかなオーラを感じて背筋が凍った。


『おい』




確かに全身濡れているので少し肌寒い気はするが、それとは全く別のそれは体が覚えてしまっている事が悲しい。

背中に刺さる言葉が痛い。


振り返る事が出来ない私の腕を思い切り引っ張り、笑顔で見送るびしょ濡れ仲間の右京を睨み付け、一度も乗ったことのないエレベーターで一階まで降り昇降口を出て尚引きずられ、黒塗りベンツに放り込まれた。


『ぃだっ!なにすんのよ!』


『うるせー黙ってろ。出せ』


家に送ってくれるのかと思いきや着いたのは要邸で、メイドらしい女性に風呂場に連れて行かれて、そして出て来ると用意されていたのは謎のバスローブ。



そして…。




「星南右京を探して、ずぶ濡れに…ねぇ」




ソファーに座る要冬真と、その地面に正座の私。
柔らかカーペットなので悪い気はしないが。


今日こそ切り取って持ち帰ろうか。



あ、またハサミない。





「あ、あれだよ!別に何かあったとかじゃなくて、大体右京好きな人いるし!それで…」




はっ!!!
またフォローしてる!!
馬鹿やろう私!




「それで?」




ギャァァァ

冷ややかな視線が突き刺さる。


どうしよう、特に続く言葉は考えてなかった。


意外と庶民的な、スエットのような柔らかいズボンにTシャツを身に纏う奴はラフなのに何故がカッコイイ。


いやいやカッコイイって。



「あの…お言葉ですが。なんで、怒ってるんですか」




意を決して口にした言葉に、ヤツが一瞬、動きを止めたのが分かった。




…あれ?




もしかして…。