また、雨だ。


現国の授業は割と好き。
何故なら日本語だから。


いつもより酷い雨足は何故だか耳に心地よかった。

本格的に梅雨入りしたようだ。あれから右京には会っていない。
ただ単に右京と会う場所は屋上だけだったし、普段離れた場所に居る私達はすれ違うこともないというだけなのだが。

彼と一緒に茶屋に行った翌日、彩賀さんに全力で心配された。

委員長にも、お前ホテルに連れ込まれなかったろうな!?と無駄な心配をされ、ハルには、突っ込まれなかったかと聞かれ散々だった。


突っ込まれるって何。


星南右京のマイナスイメージは、どうやらかなり浸透しているようだ。



『何も、なかったんだな』



要冬真は漸く椅子に座った私の目の前に現れ、鬼の形相で冷徹な口調でそう言った。


心配してくれた事が不覚にも嬉しくて、にやけそうになる口元を無理やり押し下げ、そんなわけないと答えるとヤツは鼻で一つ笑ってから一言。



『お前色気ねぇしな』





そしていつも通りの喧嘩に突入。



やっぱり、わからない。

私がヤツを知りたいと思うのも、ただの好奇心ならいい。


私は、“好き”を知らないから。



だから一生知らなくていい。






「あれ、こないだ右京と一緒におった…」






傘をさすのも億劫な土砂降りの中、いつも通るスーパーの前で信号待ちをしていると、横に綺麗な紫陽花柄の傘が立ち止まった。

綺麗な傘だと、何となくそちらを見るとその持ち主は私に気が付いて声をあげる。




「あ、こんにちは」


傘ごと体を倒し挨拶をすると、奈央さんはニコリと笑う。
大人特有の笑みは、着物を引き立たせて上品だ。



「こっちの方に、住んではるの?」


「あ、はい。奈央さんは…」


「私はね、買い出し。牛乳が切れてしもてな」



そう言って、左手にぶら下げていたビニール袋を持ち上げた。
確かに中には牛乳パックが何本か覗いている、それに彼女の着物は先日店で着ていたモノと同じ。




「勤務中やから早よ帰りたいんやけど。この信号長いなぁ」