右京が漕ぐブランコの振動が、こちらにも伝わってくる。
高く上がりすぎて、椅子を繋ぐ鎖がガタッと音を立てた。




「“好き”ってなにかわかるか?」




速度を緩めたブランコの上で、少し息を弾ませながら右京は身長差分低い私を見下ろした。


ブランコを支える鉄の棒に垂れる水滴が、スカートに落ちてシミになる。


「わかんない」



「やろ?俺もわからん!」



大口で笑い飛ばした彼は、突然漕ぐのを止めて片足を地面に引きずりながらゆっくり止まった。
それから、嬉しそうに笑ったのだ。



「でも、やっぱり好きなんやなぁ!そしたらな、人を好きになんの、意外にいい加減やなと思ったわけ。だってな、俺、奈央が笑っとればそれでええと思っとる、ただそれだけ。“好き”って、たったそれだけや」



右京はブランコから降りて私の方へやってきたかと思うと此方を見上げて笑った。



「鈴夏、自分はええ人いるんやろ?」




「…、わかんないよ」




わかんない。
わかんないけど。




「もっと知りたいと思う人は、いる…かもしれない」



例えば、そんな人に大切な人が居たとしても。
単純にただ“好きなんだ”と言えるようになるだろうか。


押し付けない純粋な想いが、私にも生まれるのだろうか。




でも、そんなに“好き”って、単純なの?



「帰るか」




ブランコから降り、ぬかるんだ地面に足をつき、公園を見渡して、私達は歩き出した。




「いやぁ、また行こな」



「奢りならね。また抹茶飲みたい」



「アホ!抹茶高いねんぞ」



右京は、必要なくなったビニール傘をグルグル回しながらこちらを睨みつけた。
それから、思い出したようにニヤリと笑い私の頭に軽く手を置く。


「鈴夏は、はよ素直になりぃ。好きになるんはなぁんも、悪いことやないんやで。それが解ったら、奢ったるわ」




そんな難しい事。

わかるのかな。



やっぱり、“好き”って難しいんじゃないかな。




――…“好き”を知らない私には