「なにここ」


「兄貴のやっとる茶屋」





放課後、わざわざ教室に迎えに来た右京を見る周囲の目はすごかった。

周囲というか、彩賀さんが。



それを見た彼は彼女に近づき、「安心しぃ、謝罪のつもりで飯奢るだけや」とクラス全体に聞こえるような大声で宥め二人で学校を出た。


私の帰る道と全く逆方向の、新鮮な道のりを歩き右京が足を止めたのは和風で可愛らしい小さめの喫茶店。


さしていた傘を閉じ、慣れた様子で戸を引いた彼を追いかけるように私も店内に足を踏み入れる。

小さいがいくつか座敷があり、奥には和菓子が並ぶカウンター。

内装も目に優しい和風の作りだ。



「あら、右京やないの。いらっしゃい」



着物を着た女性が、暖簾の奥から顔を出した。

長い前髪を流して後ろで高めに髪を丸めた純・和風美人。
大人らしい控え目の化粧がそれを引き立たせる。



「あぁ、今日は普通に茶ぁ飲みにきた。二人な」



「あら、女の子!初めてやねぇ右京が女の子連れてきよるの。こんにちは」


は、初めて!?
なんてこったいカルチャーショック!!


私は戸惑いながらも、その店員さんに深々頭を下げた。


脳内でユキ君が『文化の違い』と突っ込みを入れたが解っているさ!
私の中の“星南右京の常識”が覆されたのだ。

そりゃあ驚くわ。


私を誘導するように座敷に座った右京を見て後に続くと、先程の店員さんが小さな湯飲みを御盆に乗せて出て来た。



「これは普通ん茶やけんな、抹茶とかもあるんで良かったら試してみて」



抹茶。
茶道の家だからか?

店員さんが奥に引っ込んだのを確認して、私は身を乗り出すように右京を見た。



「あれ、兄貴の彼女」



私の聞きたい事がわかったのか、こちらをチラリとと確認してそう答える。
そして湯飲みを手にとり口を付けた彼はさらに一言。


「で、俺ん好いとう人」


「ブハッ」


「うわ、汚いなぁ自分」




飲みかけた茶を吹き出してしまった事は謝ろう。
しかし、君の発言にも問題があると思うぜ!!