「コスプレと言う世間では少々下品だと言われるジャンルでも、お客様を視覚的に楽しませるというのは重要なことだと思いますわ。普段見慣れない新しいモノに惹かれるのは当然の事、執事やメイドを見慣れている私達にとって、真新しい“コスプレ”という分野は大きな経済効果になります。さらに料理は…」



長い。

文化祭の出し物に関する提案だ。
今年7月を予定する事になったそれの出し物を決めるLHRを1限目に持ってきて話し合いが行われている。

彩賀さんが怒りに任せて熱弁しているが、怒りの原因は言わずもがな。


あの後彼女はツカツカと私の元に寄ってくるなり写真を取りあげ、ビリビリに破いて燃えないゴミに捨ててしまった。


彩賀さん、写真は燃えるゴミだよ。


彼女は今コスプレレストランと言う発案の元、コスプレから生まれる経済的効果など、何となく聞いていれば真面目そうだが、よくよく聞けばかなり馬鹿馬鹿しい話を結構な時間続けていた。


ちなみに隣のハルは、「コスプレすげぇ!」とか言っている。

こいつマジ馬鹿。


私は隣から視線を移して、前を見た。

お決まりの黒い後頭部。
先程掴まれた手首は少しだけ、熱を持っていて、胸が静かに高鳴る。

助けてくれたのは、間違いないと思っていたのだが。

ヤツの性格上、憎まれ口の一つや二つふっかけられると思っていたため、あんな不機嫌に去られてもどうしたらいいかわからない。

変な誤解を、されたかもしれない。




弁解する余地も無かった。




――…いやいや、弁解とか、する必要ないよね




誤解を解きたいなんて…。
思ってない。
断じて。






「リン?」






「うわ!ビックリした!」


視界に突然現れた大きな二つの目。
私を覗き込むように頭を倒して、金に近い茶髪がダラリと垂れている。
相変わらず寝癖がついているが、いつものことだ。



「コスプレ、なにがいい?」



「え!コスプレ!?なんで!?」