「ったく、やっと目を覚ましやがったか」



ノロノロと開けた目から、まず見えたのは柔らかそうな黒い髪。
それから影が綺麗に入った鼻筋に、長い睫毛。


そっか、私気を失って…


「っていうか!なんで椅子に拘束されてんの私!」


「てめーが逃げようとするからだろ」


「仮にも病人を椅子にグルグル巻きにするとは…悪魔だな」


苦し紛れに憎まれ口を叩けば、要冬真は一度大袈裟に驚いたような顔をした後、バカにしたように鼻で笑った。


こいつ…!



「大体、授業もせずにこんな事していいの?拉致よ拉致!」



「もう放課後ですよ」


「え!マジで」



後ろで眠そうな声が聞こえ振り返ると、柔らかそうなソファで天使野郎が横になって本を読んでいた。

つうか、ここどこ?



「安心しとけ、担任には“暴走して窓から落ちた”って伝えておいた」


「安心出来る要素が一つもねーし!完璧変人じゃん!」


「変人じゃねーかサル女」


「あんたが追い掛けてくるからだろナルシスト野郎が」


なんとなく、ゴキブリ野郎とは言えなかった。
凄まじく逆鱗に触れそうだし。

というか一日目から気絶して授業放棄とは…滅茶苦茶不良じゃん!
明日からみんなに怖がられること間違いない!

学園アイドルゴキブリ野郎に手を出したとはいえど、今日の殺気立った視線はもう浴びないかもしれない。


いやぁ安心。

あれ、安心なのかなこれ。
明日から誰も目を合わせてくれないんじゃないか?



「おいサル。お前名前は」


「は?朝自己紹介しただろ節穴か貴様」


「黙れ朝はお前をどう平伏させようか考えてたんだよ」



へ、平伏!!
何だこいつはルイ14世気取りですよプププ!


「って怖!ニトウ-スズカですが何か問題でも?」


「よしサル」


「おいこら。せっかく読みやすい様にカタカナにしたのに“サル”って掠ってもいないじゃん。名前無視じゃん」


「お前は今日から俺様の下で働いてもらう」