冬うらら2


「……ト?」


「カイト…?」


 何度呼びかけられただろうか。

 あたたかい手が、自分の頬に触れた瞬間に、ハッと彼の意識が戻ってきた。

 すごく心配そうな、メイの瞳が見つめている。

 悪夢にうなされたのを、誰かが気づいて起こしてくれたような温度。

 そうだ。

 メイは、そこにいる。

 自分でも、信じられない安堵の息がこぼれた。

 彼女はどう解釈したのか。

「やっぱり…明日にでも戻してくるから……ごめんなさい」

 慌てて箱のフタを閉めて、彼女はそれを持ち去ろうとする。

 これを見せてしまったから、カイトの調子がおかしくなったとでも思ったのだろうか。

 慌てたのはカイトの方だ。

 いま、やっともう一度、彼女がそこにいるのだと確認したばかりなのに、また目の前から消える気なのか。

 それが、たとえ二階であったとしても、いまのカイトには耐えられない。

 足を踏み出して、逃げるような身体を捕まえた。

「あっ…」

 箱が、床に落ちて跳ねる。

 緑色と白の水が、こぼれて広がった。

 カイトは目もくれずに、メイを抱きしめる。

 伝わってくる温度を、身体いっぱいで感じようとした。

 それ、が。

 そう、『それ』というものが、決してこの空気を壊したりしないように、カイトは二人の間に『それ』が入る隙間もないくらい、ぎゅっと抱きしめるのだ。

 カイトが、一番恐れていて―― そして、二度とその襲来にあわないように。