◎フルーツ

 せっかくだから。

 いま届けられたばかりのフルーツ盛りを、ハルコは小皿にいくらか取り分けた。

 何が、せっかくなのかと言うと。

 せっかく、こんなすっきりとした、口当たりのものが届いたのだ。

 あの、遠くで違う世界になっている二人にも、届けてあげようと思ったのである。

 決して、二人の様子を、近くで眺めてみたいと思ったワケではない。

 何しろ、ハルコにはフルコースが、ちゃんとあるのだから。

 でも味見くらいはいいわよね―― さっき自分にした、言い訳の舌の根も乾かないうちに、ハルコの心から、ポロッと本音がこぼれ落ちてしまった。

 リエとその彼がいなくなってしまって、すっかりつまらなくなってしまったというのが、一番近い気持ちだろうか。

 面白そうな彼のことを、よく知るまでもなく消えてしまわれて。

 欲求不満なのかしら。

 リンゴやメロンを乗せた小皿を片手に、ふふ、と笑う。

 まだ、第一開発のチーフと話し込んでいるソウマに、ちらりとアイコンタクト。

 向こうも視線を返してきたが、彼女がどこに行こうとしているのか、怪訝そうな目だった。

 ヒミツよ。

 意地悪にそう思いはしたものの、ハルコが行こうとしている先を見届ければ、秘密でも何でもないだろう。

 するっと夫から視線を外して、彼女は無事ワンコの社長のところにたどりついたのだった。

「フルーツはいかが?」

 あくまで、自然に笑顔で小皿を差し出した彼女は、気持ちよさそうにタロウ氏にへばりついているハナ嬢を見た。

 背広を着せかけてやって支えている姿は、まるで恋人同士そのものだ。

「ああ、えろうすんまへん」

 嬉しそうな笑顔で、その皿を受け取る。

 ハナを支えているために、まったく動けなかったに違いない。

 ハルコが、補給部隊に見えただろう。