冬うらら2


「あぶな…!」

 ガシャ、ガシャン!

 いくつか、ガラス類を巻き込むような音が聞こえた。

 ちょうどハナの側には、テーブルがあったのだ。

 上には、いろんなものが乗っている。

 それを、ひっくり返してしまったのだろう。

 しかし。

 ハナの身体は、そのまま机にダイビングしたりしなかった。

 窮屈で不自然な角度のまま、止まったのだ。

 視界に入るのは、会場の天井と―― その途中の、ズリ落ちそうな丸眼鏡。

 メチャクチャ焦っている、眼鏡の向こうの目。

「……ダイジョブか?」

 柔らかい西部なまりが、耳に流れ込む。

 あきらかに、ホッとした表情に変わったのが分かった。

 何、こいつ。

 ハナは、現状をよく理解できなかった。

 助けてくれたのは分かるが、さっきからイチイチイチイチ自分につっかかってくる。

 ワンコの社長に会ったのは、これが初めてだと思っているが、何か因縁でもあったのだろうかと思うくらいだ。

 ゆっくりと垂直に態勢を戻してくれる時に、ハナの手は無意識にテーブルの上にあるものを掴んでいた。

 やわらかくて、ネチョっとしていて。

 不快感があったが、無意識だったのと酔っているせいで、そのまま握りしめてしまった。

「う…」

 身体が垂直に戻ると。

 そこでようやく、自分が飲み過ぎたことに気づいたハナだった。

 うまく1人で立てないのだ。

 思わず、目の前の身体に両手ですがってしまった。

「だ、大丈夫か!」

 驚いた強い声が、飛んでくる。

 そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわよ―― ツッコミも、こんな状況では口から出てきたりしない。

 白黒に点滅する視界に、もっと強くすがりつくしかできなかった。

 そう。


 無意識に握りしめていた、スモークサーモンの手で。


 ワンコの若社長の、スーツにすがりついてしまったのだった。