冬うらら2



「あらあら、あの元気のいい子は誰?」

 ハルコにそう聞かれて、リエは軽いめまいを覚えた。

 彼女の指先にいるのは、鋼南電気の男性社員のネクタイを締め上げている女性で―― 会社内でも、非常に目立つ存在だった。

 名前を―― 確か、ハナと。

 社内は走り回る。

 騒ぐ、噂は振りまく。

 開発の数少ない女性ということもあって、他の女性社員の中でも、飛び抜けて異質な存在だった。

 開発の人間は日頃私服なので、尚更、他の仕事についている制服の女性社員から浮き上がる。

 特にハナは、女性同士の噂の中でも、賛否両論はっきり別れる存在だった。

 リエは、噂に荷担することはない。

 しかし、着替えを行う女性用のロッカーなどでは、イヤでも耳に入ってくるのだ。

『騒々しくて、オタクで、バッカみたい…カレシもいないんじゃないの?』

『あら、あの子好きよ。はっきりしていて面白いじゃない』

 その両極端の噂を聞いているために、直接知り合いではないリエは、どうハルコに答えていいか分からなかった。

 知らない人間のことをとやかく言いたくはないのだが、いまのハナの姿を見る限りでは、決して胸を張って紹介できそうになかった。

「は、はあ…開発の女性社員のようですね」

 私は、直接知り合いではないもの。

 そう自分に言い聞かせながら、リエは無関係を主張した。

「あら、そうなの? カイト君とケンカしそうなタイプねぇ…ふふ」

 楽しそうにハルコは笑うが、そんなことを有能な社長秘書は、想像したくもなかった。

 ミサイル同士を、ぶつけ合うような結果になるのではないか。

 とてもじゃないが笑えない。

 社長の機嫌一つで、彼女の仕事が左右される可能性があるのだ。

 トラブルなんて、社長の存在だけで十分である。

「ああほら、せっかくの二次会なのに、そんな暗い顔しちゃダメよ…はい、ビールでも飲んで」

 ハルコが、汗をかいたビールの瓶を持ち上げて勧めてくれる。

 一度は断ったものの、彼女の笑顔に勝つことが出来ず、「はぁ…」と曖昧な言葉を呟きながら、リエは元先輩にお酌をしてもらったのだった。