冬うらら2


 しかし。

 まだ、新郎新婦はケーキの前から、逃げることはできなかった。

 それについては、ハルコはぬかりはない。

 新婦の希望で、本物のケーキにした時に、もう一つ会場側に提案したことがあったのだ。

 すると、にっこり笑って担当者は『できますよ、では、そうしましょう』と答えたのである。

 シュウ…頼んだわ。

 カメラマンに、大きな期待を寄せる。

「いまナイフの入りました愛のケーキを、お互いに一口ずつ食べさせあっていただきましょう!」


 ジャジャーン!!


 実際には鳴らないファンファーレが、ハルコの中では確かに演奏された。

 これが、彼女が披露宴に仕掛けた隠し球だったのだ。

 スタッフは、ささっとケーキに近づくと、ケーキをひとかけら切り分け、小皿に乗せる。

 そして、二人に捧げ持つように差し出すのだ。

 戸惑う新郎と新婦。

「では、最初に新郎の方から、新婦に…」

 固まったままのカイトに、容赦ない進行の声。

 高まる周囲の、期待の視線。

 どうしたらいいのか分からない新婦。

「新郎の手で、口に運んであげてください」

 さらに、ズバンズバンと畳みかけられる。

 あら。

 ちょっと酷だったかしら。

 ハルコは、微笑みを絶やさないまま、そう思った。