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 当日は朝から。

 窮屈な、しかも似合わない衣装の中にぎゅうぎゅうに押し込められ、ついでに新郎控え室に押し込められたまま、カイトは軟禁状態だった。

 部屋の端の方では、石油ストーブがちらちら揺れている。

 レトロな教会だった。

 同じ部屋にいるのは、もう見飽きた連中の顔。

 ソウマとシュウだ。

 シュウにいたっては、一体何日ぶりに顔を合わせるだろうか。

 納期前で忙しかったこともあるが、同居人にはあるまじき久しぶりさであった。

 ケイタイで、何度か声を聞いただけだったが、相変わらずロウでもハイでもない、一定のテンションを保ち続けているようである。

 もう二度と、鏡など覗き込みたくないという意気込みを表すように、カイトはそれに背中を向けて座ったまま、イライラし続けていた。

 かろうじて、まだきっちりとはめていない、ブラさげた蝶ネクタイが、彼の反逆の証。

 新郎の支度など、実際は結構早いものだ。

 そして、もうかれこれ1時間近く、メイとひきはがされたままである。

 いくらなんでも、そろそろ綺麗なウェディングドレス姿が出来上がっているだろう―― ただ、この教会の控え室は意地悪な作りになっていて、教会の建物を挟んで両側に離されていた。

 彼女に会いたければ、教会の前を横切って駆けていかなければならない。

 のだが。

 そろそろ表の方では、招待客の連中が集まり始めたようなざわめきが聞こえてきた。

 クソッ。

 イライライライラ。

 会えない環境を作られるのは、イヤだった。

 ほんのわずかな時間であれ、他人に強制されて引き離されているのは、トラウマのせいか、彼の心をひどくかき乱すのだ。

 抱きしめさせろ、とは言わないが。

 ガタッ。

 耐えきれずに、カイトは立ち上がった。

 そして、大股で出口の方へと向かう。