冬うらら2


「……!」

 分かった瞬間、カイトは硬直した。

 これは。

 この。

 カップは。

 白い、マグカップだった。

 何の柄もなくシンプルで、本当にただの白いマグカップ。

 一見特徴が何もないそれを見て、しかし、カイトは『あのカップ』であることを確信していた。

 振り返る。

 メイを、だ。

 彼女はそこにいて、片づけの作業をしているはずだった。

 しかし、作業の手は止まっていた。

 そして、メイは―― 自分を見ていた。

 驚いて、動けない顔だ。

 視線は、カイトの持っているそのカップに注がれている。

 間違いなかった。

 これは。

 結婚する前の、彼女が出ていく前の、夜のお茶のカップだったのだ。

 カイトの中で、記憶が一気によみがえる。

 夜のお茶。

 彼にはコーヒーを。

 メイは、お茶だか紅茶を入れて、一緒に飲んだ。

 別に、何をしゃべったワケでもない。

 けれども、一緒にいられるささやかで貴重で、信じられないくらい優しい時間。

 お茶を飲むためだけの時間が、あんなに大事だと思ったのは、あれが初めてだった。

 その時に、彼女が使っていたのが、この白いカップだったのだ。

 元はといえば、カイトのカップだった―― らしい。

 ハルコがくれたものだが、自分で使った記憶はない。

 あったかもしれないが、覚えていない。

 メイは、何故このマグカップを持ち出したのか。

 それを持ったまま、じっと彼女を見る。

 別に、顔に答えが書いてあるわけでもないのに、目をそらせなかった。