冬うらら2


 彼が、そんなことを知るはずがなかったのである。

 だから、妻を誘拐―― という結果になってしまったのだ。

 その妻は、驚いたまま指のサイズを計ってもらっている。

 じゃらじゃらと、山ほどあるリングをとっかえひっかえ、ぴったり合うサイズを探しているのだ。

 カイトは、まるで妻の着替えに同席しているような気分で、そっちを見ないようにしていた。

 同時に、『結婚したんだから、結婚指輪を買うのは当たり前だ』というオーラを発して、メイからの制止や疑問の言葉を跳ね飛ばしてもいた。

 とは言っても、それにカイトが気づいたのは、ほんの昨日の出来事だったけれども。

 チーフとの会話の中に、たった一度だけ出てきたその言葉は、時間差こそあったが、彼の記憶の中にジュッと焼き付けられたのである。

 しかし、ソウマたちに言われる前に気づけたという事実が、少しだけカイトを誇らしくさせてもいた。

 自分が気がついて、彼女を幸せに出来るのだという充実感と言った方がいいか。

 とにかく、メイの指を、自分の実力で飾ることが出来るのだ。

「9号ですね…」

 そう女店主が言ったのが、彼の耳にするっと入ってきた。

 そうか、9号か。

 まだ、空欄だらけのメイファイルに書き加えられた。

 果たして、それが活用される時が、くるかどうかは分からないけれども。

「はい、次は旦那様の方の指を…」

 そう言われるまで。

 カイトは、結婚指輪は男もするものだということを、すかっと忘れ去っていた。

 な、な、な…オレもか?

 慌てて二人の方を見ると。

 店主はにっこりとカイトを見ていて、メイは恥ずかしそうに、自分の左手を握ったようにうつむいていた。

「どうか、なさいました?」

 戸惑っているカイトに、怪訝の声。

 そうなのだ。

 昨日チーフも言っていたではないか。

 指輪をしていないカイトだから、どっちなのか分からない、と。

 オレも…。

 自分が、指輪をしているところなど想像出来ず、逆にしようとして具合が悪くなってしまった。