冬うらら2


 カイトは、結婚指輪の知識など、何も持っていなかった。

 だから、最初店に入った時は、かなり恥ずかしい思いをしたのだ。

 こんな宝石店に入るというだけで、彼の表情はかなり険しいものになる。

 本当に、世の中は面倒くさいことだらけだった。

「いらっしゃいませ…贈り物ですか?」

 どうして、そう思うのだろうか。

 指輪を睨んでいたカイトに、店員が呼びかけてきた。

 後で、女店主であることが分かった。

 まあ、確かに自分で指輪をするような男には見えないだろうし、客を相手にする場数は、かなり踏んでいるだろうから、何となく察することが出来るのだろう。

「結婚の…」

 むっつりした不機嫌な表情は、こういうチャラチャラした店に、好きで来たワケではないというポーズだ。

 彼女の協力ナシには、目的のものが手に入れられないということは分かっていたが、最小限のこと以外は、隠しておきたかったのである。

「ああ、結婚指輪ですね…ゴールドやプラチナや、いろいろありますけど、どういうのがよろしいですか?」

 物腰の柔らかさが、どこかハルコを思わせた。

 商売人としては使えそうだったが、参考例があるせいで、カイトは苦手だった。

「何でもいい…石も何でも」

 給料三ヶ月分―― カイトの指輪に対する知識など、その程度だった。

 しかし、相手が「は?」という顔をする。

「あの、お客様…結婚指輪は、宝石はつきませんが…婚約指輪とお間違えでは?」

 本当に、カイトの知識など、その程度だったのだ。

 そう、何もかも間違えていたのである。

 店の主人はカイト相手に分かりやすく、結婚指輪を見せてくれた。

 何の変哲もない、ただのリングだ。

 金色か銀色かの違いこそあれ、その程度の、本当にシンプルな形。

 てっきりカイトは、赤だの緑だのの石がくっつくと思っていたのに。

 そして、決定的な言葉を言われたのだ。

「それで、奥様になられる方の指のサイズは?」

 ガーン。

 カイトのショックは、大きかった。