「別れよう…オレ達」
「は…?」

唐突な別れ話。
それにしても、余りに間抜けな反応をかましてしまった女…
そんな彼女を残して、さっさとその場を離れるスーツの男。
そして、まだ口を開けたまま呆然と立ち尽くすスーツの女。
彼女の名は、松木さち、29歳、OL、そして…独身…。また今夜、結婚が彼女のもとから遠ざかっった。
両親から、幸せを願って付けられた名前に、完全に負けた人生を送ってきた女、それが、さちだった。

「…グズッ、ヒック、…ズズ、ズゥゥ!」
盛大に鼻をすすりながら、帰り道を歩くさち。

「…なんでなのよ、なんでいきなり…」
まだ、目には涙が浮かんでいる。
彼女は、半ば自分を失いながらも、ちゃんと家に帰っていた。あの角を曲がれば、彼女のマンションはすぐだ。
「…飲むわ、今日は飲んでやるっ!明日の出勤なんか知らないわよっ!…ズズズゥッ!」

上司が聞いたら激怒するセリフを吐き捨て、彼女は最後の角を曲がった。が、そこにマンションは無かった。
周囲はスモークのような霧に包まれ左右の区別もつかない、そんな中に、一つの店があった。

人間ペットショップ
そう書かれた大きな正面看板を見て、また立ち尽くす女が一人。