岩の塊から重い腰を上げる。


「行くの……?」

歩き出すと、ちょこちょこと小股でついてくる。


「ああ。ハーゲンダッツのバニラ、買わなきゃな」

そう言って、月明かりに照らされる美星にはにかんでみる。


美星は笑わない。


けれど俺の中の美星は、満面の笑みで俺に微笑みかけている。


(俺が取り戻すさ、必ず)


差し出した左手を掴む感触があった。


千歳さん……


名前を呼ばれたのは気のせいだったかもしれない。

俺は、左手に触れる細い指を握り返した。


空を仰ぐと、満天の星空が霞んで見えた―――。

〜Fin〜