「あらあら部長さん、どうなさったの?
うちのお店にいらした方には、皆さんに気持ちよくお酒を飲んでいただきたいのよ」
にこやかにそう言いながら、失礼、とママさんはホステスさんを立たせてそこに自分が座った。
ホステスさんは一礼して先客の席に向かった。
ママさんは本郷部長に膝がぶつかるくらいにスツールを寄せて腰掛けた。
おかげで本郷部長のいやらしい視線はママさんに釘付けになった。
本郷部長の視線があたしから逸れると、あたしの目から、こらえていた涙が膝の上にポトポトとこぼれた。
くやしい……
こんな最低な奴のために泣きたくなんかないのに。
すると、隣の水野さんがテーブルの下から手を伸ばし、あたしの固く握り締めた両手を自分の掌で包みこんでくれた。


