「タク…来てくれたんだ…」


俺は恵の髪を撫でていた手を止める。


「玄関の鍵、閉めろって言っただろ?」


「いつ死んじゃうか…わかんないから、開けてるの。タクが来てくれるから…」



俺は、恵の手から奪い取ったカッターを指差し、恵を睨む。


「もうしないって言っただろ…自分の体傷つけてどうすんだよ。」



懐かしい匂いがした。


シャンプーなのか


香水なのか…



昔と同じ匂いがした。




抱きしめないと感じることのできないくらいの香り…




俺の胸の中で震える小さな体を、俺は抱きしめていた。



もう一人の俺が叫ぶ。



だめだって…




恵を救うのは、お前じゃない…

お前には守るべき女がちゃんといるだろ…


…って。