【ゆかり】



この空気は

どういう空気なのか

女の子には わかるんだよ。



どうして

穏やかな幸せを邪魔するの…


恋の神様…


せっかく、乗り越えたのに…


ひとつ大人になれたはずだったのに。




また苦しいよ。



誰?



たっくんを愛してる目。


ただじっと見つめる目は、たっくん以外の誰にも気付いていないような熱い恋する目。



私も


たっくんに恋してるから


わかるんだよ。



その子の目が、本気か 本気じゃないか。





たっくんは私の声に、体をビクッとさせて固まったまま、振り向いてもくれなかった。




まだあどけない少女に、たっくんは『ごめん』と言って、手を振り払った。




走り去った少女の後ろ姿を見て、思い出した。



今日、バイトに向かう道で感じた視線…



あの子だ。


あの子が見てたんだ。





変な勘だけ鋭くて…


なんとなく想像がつく。





きっと、たっくんが途中まで手を出した子なんだろうな…って。




酔った勢いで、愛なんてなくて…それっきりで、

何日かしてから、彼女とよりが戻ったたっくんを祝福してくれたって…



女の本気の『好き』の恐ろしさを

たっくんは知らないんだ。



だから、あんなに安心した顔で話してくれたんだね。

『祝福してくれたよ。俺への気持ちは憧れなんだって』


信じた私も甘かったんだけど。





また 悩むの?


また 嫉妬?


また 疑って たっくんの言葉を信じられない日々が来るの?





もう大丈夫って思ってたのに…



もう やだよ。



穏やかに 毎日を 過ごしたいよ。