「名前、聞いてもいいですかぁ?」
「海東卓弥……さっき、女にフラれたばっかのかっこ悪い男ぉ…」
路地裏から少し離れたその公園は、猫がたくさんいた。
千恵理に、俺を『たっくん』と呼んでくれと頼んだ。
かわいい笑顔で頷いて
何度も『たっくん』と言ってくれる。
なぁ、このコはゆかりじゃないんだよ…
代わりになんかならないよ…
もう一人の俺の声を掻き消すように
俺は、千恵理を抱きしめた。
「たっくん、お酒飲みすぎだよぉ?」
「だってよぉ…俺…もう忘れたくて…」
俺は初めて会った子の胸で泣いてしまったんだ。
俺を胸に抱いたまま、千恵理は話し始めた。
千恵理は、焼き鳥屋の近くを毎日通っていて、何度か俺を見かけるうちに好きになってくれたんだって…
そのうち、俺のバイトの曜日や時間もチェックして、いつもこっそり俺を見てた。
名前も知らない俺を、もうかなり昔から好きでいてくれた。
「たっくん…今日だけ、私をその彼女だと思っていいよ。」
そんな優しい言葉をくれる千恵理…
公園に1つだけある街灯が千恵理を照らす。
ほんのり赤くなる頬がかわいい。
照れたように髪を指に巻きつける仕草…
俺は、千恵理の髪を撫でた。
「酒臭い?」
俺の問いかけに千恵理はキスで答えた。

