「お邪魔しました」


そう言って安藤の家を出るとき、玄関先で安藤の後ろに立ってこちらを見ていたナツメと、ふと眼が合った。

ナツメは、またふわりと笑うと、靴を中途半端に引っ掛けて門の前で立ち止まる俺のもとに駆け寄ってきた。


口端をあげて、ゆっくりと言葉を紡いでくる。

「すみれの料理。……あれ、アンタだろ」

眉間に皺を寄せると、肩をすくめて小さく笑って返される。

「いったいどんな手をつかったわけ?「女」をあんなに嫌っていたすみれが、急に女の子らしくなってさ。びっくりしたよ。だって―」


「―条件、だ」


そう言うと、首を傾げてこちらを見つめてきた。
光を持った藍色の瞳が、その先を促しているのが分かる。

だが俺はそれには応えずに、そのまま門の外に向かって歩き出した。
待てよ、とナツメが言った気がしたが、聞こえないフリで振り返らずに歩みを進める。


少しの沈黙の間、背中にナツメの声があたった。



「大事なやつなんだ、すみれは」




その、言葉が。


心に深く刺さった。