二メートルほど先にある飴色のドアを指差し、安藤が「あそこが風呂場だ」と言って着替えを差し出してきた。

俺は頷いて、安藤の手からそれを受け取り、礼を言ってドアを開けた。
ドアが閉まる直前、背後から、安藤が小さく「お前が礼を言うのはおかしいだろう…」と呟くのが聞こえた。




家も広いが、風呂場も広かった。

大浴場並みの広さに、
ここは旅館かとつっこみたくなる。


親子二人だけで住んでいる家の筈なのに、シャンプーやボディソープは何種類も置かれ、どれを使うかで迷った。


一番、高そうじゃないやつ―。

そう思い手に取ったシャンプーのボトルは、コマーシャルなんかでよく目にする、一般家庭にもありそうな銘柄のものだ。




一通り洗い終わると、安藤が溜めてくれたのか湯の張った湯船にザブンと浸かる。



湯気がもくもくと上がり、視界が白く染められていく。

夢なんじゃないかという気さえした。

ただのクラスメートのはずの安藤の家の風呂に入っている俺。

まず、クラスメートに家に来たことを知られれば、その時点で変な噂がたちそうなのに、…風呂まで。


安藤は何も考えないんだろうか。
何とも思わないんだろうか。


俺が、家に泊まることを。