―初対面の相手にベラベラ喋ることじゃない。


促されるまま部屋を出て、リビングへと続く長い廊下をそのずんぐりした背中について歩く俺に、巨体は振り返らずに淡々と言った。


「俺だってあいつを変えられるなら人に頼らずにやりたいんだ。……だがな、なかなか頑固なんだ」


…なら。十六年間安藤を見てきた親がそんな事を言うのだから、俺なんてもっと…


「――だから賭けてみたい。あの頑固者に、条件とはいえトラウマの料理をさせた君なら、あれを記憶から解放できるかもしれん」


巨体は足を止めてこちらに振り返り、困ったように笑って言った。


「すみれには消せない記憶がある。…一人で全て抱え込んで、強くなることで自分を保っている。


…七澤君と言ったか。



あいつのことを、もう少しだけ見ていてやってくれないか」




やがて、

奥に見える半開きの扉から、飯の炊ける匂いが漏れ出してきた。