階段を降りると、どこからか水音が聞こえてきた。
音の方向に目を向けると赤いチェックのエプロン姿の安藤が、台所の流しで手を動かしている。
その背中に声をかける。
「―安藤。俺、もう帰るから」
突然背後から声をかけられて驚いたのか、安藤の肩がピクリと動いて、振り返りこちらに顔を向けてきた。
そしてバックを持った俺を見て目を見開いた。
「…お邪魔しました」
「ま、待て!」
玄関のほうへと歩き出した俺を、安藤がタオルで手を拭きながら止める。
なにかと思い、振り返ってその顔を見ると、ほんのり赤かった。
「…その……不味いかもしれないが…ゆ、夕飯、食べていかないか」
俯きがちに、目を泳がせる安藤。
俺の返事を待つ間のその緊張が、こっちにまで伝わってきて思わず口から笑いが漏れた。
なんでこいつは、こうもいちいち、一生懸命なんだろうか。
口元を緩めたまま、俺は頷いた。

