「…どうしたんだ?七澤」
連休初日の午後1時、Tシャツにジーンズという姿で待ち合わせ場所に現れた安藤がまず初めに俺に放ったのはそれだった。
相当不機嫌な顔をしていたらしい俺を、不安げに見つめてくる。
「なんでもない」
それだけ答えて安藤から目を逸らした。
笹との事があってから、あの黒い感情は消えることなく胸の中に渦巻いている。
…苛々する。
でも何に対しての苛々なのか分からない。
「…うん…じゃあ…こっちだ」
そう言って
安藤は俺に背中を向けて人通りの少ない道を歩いていった。
無言でそれについていく。
ふいに安藤が立ち止まりこちらを振り返って、眉を下げて口を開いた。
「七澤。…気を使わないでいい…嫌なら嫌と言ってくれ」
今更ここまできて、そんなことを言う安藤に俺はため息をつき
「そんなことあるか。気にするな」
無理に笑顔を作り、そう返した。

