…家

家っつったら家だよな。



…安藤の家。


あの昼休み時間から、そればかりが俺の頭のなかを支配している。


「総司、なに頬染めてんだお前…気持ち悪いぞ」

後ろの席の笹が俺の肩を叩いて言う。

はっとして黒板に視線を戻すと、数学教師の蓑田が長ったらしい数式をスラスラと書いていた。

「珍しいなあ。何の妄想だよ」

声色で、笹がニヤついているのがわかる。

…振り返りたくない。



「うるさい」

「んだよ。どうせ安藤がらみだろお?」

無視していると、調子に乗った笹はさらに続けた。

「あんな、喋りもしねえ女の何処がいいんだか」



―……どす黒い感情が、

心の奥に沸き起こる。


振り返り無言で睨むと、目の合った笹の瞳が揺れ、怯むのがわかった。


「二度と安藤の名前を口にするな」

名前も分からない、黒い感情。