生憎と俺は、物見遊山でライストに来た訳ではない。

大通りを一本外れ、人通りの少ない裏路地へ。

裏稼業の人間にとっては、この裏路地こそがメインストリートだ。

光あれば闇もある。

誇り高きライスト王国の精鋭騎士でさえも目の届かない場所。

そんな薄暗い闇の中で、俺達のような人種は息を殺して潜む。

裏路地に佇む物乞い。

みすぼらしい、衣服とは呼べないような布を体に巻いた老婆。

その老婆の前に立ち止まる。

「…旦那、金貨を一枚恵んでもらえないかね」

欠けた歯を恥ずかしげもなく晒し、笑みを浮かべる老婆。

その老婆に。

「『生憎3000Gしか持ち合わせがない』」

俺は告げる。

その言葉を聞いた途端、老婆の顔から笑みが消えた。

先程俺が発した言葉は、秘密結社の間で使われる合言葉だ。

「…何が聞きたい?」

密やかに呟く老婆。

声色は先程までの人の好さを感じさせない。

「…ナハト・リアリーとアキラ・ウェズリーの所在を知りたい」

俺は建物の壁に寄りかかって呟いた。