しょうがい

翔に連れられて十分が経った。僕らの目の前にはすでに廃墟があり、それを目にしながら隣りにいる彼は興奮していた。

僕がこの街にやって来たのは高校になってからで、実家は二つ隣りの町にある。その町からバスを乗り継ぎ、地元ではちょっと有名な工業高校へと通っているのだ。そんなわけで、僕はこの街に関してあまり詳しくはない。よって、今目の前にある廃墟が昔は何であったのかなど知る由もないのだ。僕をここまで引っ張ってきた隣りの彼も、この街の住人ではないために、この廃墟について詳しくは知らないらしい。

「まだ明るいっていうのに、霊なんか出るのかな?」

僕はここに来る途中に思った疑問を、彼に投げ掛けた。

「だからさぁ」と彼は言い、廃墟の中へと進みながら僕の方を振り向いた。「暗くなるまで待つのさ。それまでこの廃墟で待ち伏せるんだよ、その幽霊を」

それから彼はさらに歩みを進め、廃墟の中へと姿を消していった。

僕はあまり乗り気ではなかったが、帰って家に居るよりはきっと楽しいだろうと思い、彼の後をつけ廃墟へと入っていった。

こういう場合、ベタなホラー映画なら「不吉な予感がした」とか、「これが悪夢のはじまりだった」だとかいう決まり文句があるのだろう。しかしながら、僕の頭にはそういう直感がよぎることはなかった。