父と入れ替わるようにして、家事を終えた母が僕の近くへやってきた。母はそれから数分間、黙って僕の近くで仁王立ちしていた。しかしながらいよいよ疲れたのか、さらに数分が経つと、父と同じようにじゅうたんに腰を下ろした。

母が座った場所は父とほとんど変わらず、ある意味これが夫婦の絆とでも呼べるかのようであった。母の髪型はショートヘアーで、年の割には若くみえる方である。

僕は父の時と同じように、さりげなくメジャーの目盛を確かめてみた。

「1メートル9センチ」

父との距離と比べると、母との距離の方がわずか2センチばかり近かった。この2センチの差は、客観的に見れば大したことがない、たかが2センチだととられるかもしれない。事実、僕だってそう思った。しかしその2センチの差が後々になり、なんだか大きく感じられるようになっていった。

これが、いわゆる父と母との一般的な差というものであろうか。僕は母から生まれ、父から生まれたわけではない。きっと、その部分に2センチの差が存在するのだろう。

それから僕は二、三日、このように家族との距離を計り続けたのである。一度このメジャーに気付かれたこともあったが、それについては何も言われることはなかった。