僕と家族の間には壁がある。その壁は決して低くはなく、拳で叩けばこわれるくらいに、薄いものでもない。それがいつの日から出来たものなのか、僕自身にも分からなかった。気付いた時にはそこにあったのだ。

しかし、昔はそうではなかった。いわゆる、僕が物心つく頃には、家族そろって夏祭りに出かけたり、夕方6時くらいになると家族みんなで夕食を食べたりしたものだ。

僕が思春期、といえばそうなのかもしれないが、だからといって僕の方から家族を忌み嫌うような態度はとったことがない。ましてや父や母の方が、一方的に僕を嫌っているわけでもない。

世の中の風潮から言えば、幼い頃から僕が虐待を受けていて、家族を恨みながら日々生きている、そんな具合の物語の方が興味深いのかもしれない。けれども僕は健康そのもので、先ほども述べたとおり、幼い頃は家族仲が良かったのだ。

では何故、そんなに仲が良かった僕と家族の間に亀裂が生じたのか、詳しくは後から述べることにしよう。今はそれよりも先に話しておくべきことがある。

それはいつ頃であったか、僕は家族に対して(単なる興味本位であったが)ある実験を行った。その実験は非常に馬鹿らしく、きっとこんな実験をしたことがあるのは僕くらいであろうと、薄い優越感に浸りながらの作業であった。