テディベアは痛みを知らない

「一ノ瀬~!」

と、だれかが私を呼ぶ。これまたお生憎さま、まだ名前を覚えてあげてない男子が手を振っていた。

「お前に客だぞー、森山ってヤツ~」

だれ、それ。

聞き覚えのない苗字に首を傾げると、栗毛の男子がひょこり横の窓から顔を出す。

昨日、私を振り連れ回した彼だ。なるほど。彼の苗字は森山なのか。

「なんの用、もり、やま、くん」

席を立ち、わざとらしい棘を見せてやった私に、彼はまたしても『できた風な』笑みで応えた。

「お誘いなんだけど、また僕らの部室に来ない?」

「部室って、あのテディベアの城?」

「うん、そう」

と頷きながら、森山くんは窓の桟に腕を置いた。

前屈みになって、やや下から見上げてくる。大きな瞳だ。

「ぜひね、うちの部に貢献してもらいたいんだあ。いや利用してもらいたいっていうか」

「貢献? 利用? 悪いけど、一緒にテディベア作りませんかって話ならお断りよ」

「違う違~う、そうじゃなくって、僕は君に、」

「森山ぁぁああ――!!」

突然、怒声が轟いた。

廊下の向こうのほうから、男性教師が小走りにやって来る。

「森山ぁ!」と何度も叫ぶ声とスリッパの慌ただしい音が窓を叩く。