彼は「はい」とだけ答えて俺に一瞬微笑むと、眼付を変えて真剣な面持ちになった。


右半分が黒く、左半分が白という一見変わったこの衣装は、現役時代の俺のおふるを奴に合わせて手直ししたもの。


衣装は見た目の評価にも関わるもの。トップクラスの選手ならば専門の衣装屋で作ってもらえるが、大抵の選手は同じチームやクラブに所属する先輩選手の衣装を譲ってもらい着ている。


タクの持っていた衣装もそんな感じで、どうせもう二度と着ないので俺のをあげた。


背丈が一緒だから多少装飾を付ければそのまま使っても問題ないと思ったが、手足の長さは奴の方が長かった。無駄にスタイルが良いから達が悪い。


フリーの衣装も俺のを使う。捨てずに残しておいて良かったと、昔の自分に感謝した。


リンクサイドに向かうと、一つ前の選手がちょうどジャンプを跳んでいた。


空中で軸がぶれて二回転に留まる。あれでは点にならない。


フィギュアスケートは技術点と構成点の合計で得点が決まる。


技術点はそれぞれの要素にあらかじめ設定されている基礎点に、ジャッジが-3~+3の間で評価した演技点(GOE)を加えたものが技術点になり、構成点は五つの項目(各10点満点)の合計点に、決められた係数を掛けて合計したものが構成点になる。