その夜あたしは夢を見た。


そこは中庭で、春で。

桜の花びらが、風に乗ってはらはらと舞っていた。


ふと、目を向けると、空き教室の窓にイッペー君の姿が見えた。


――あれは高校時代のイッペー君?

イッペー君はなぜか制服を着ていた。

その顔は今よりちょっと幼くて。


やった!

イッペー君とあたし、同級生なんだ!


ちょっとうれしくなって駆け出そうとした足が止まった。


イッペー君ははにかんだような笑顔をしていた。


その横にいるのは、小柄な女の子。

二人は楽しそうにしゃべっているみたいだった。


その声は当然聞こえなくて。



あたしは思い知る。

イッペー君の隣には立てないことを。

あたしじゃダメなんだってことを。


膝がガクガク震えだす。


イッペー君はふいにこちらを見た。

だけどその瞬間、強い風が吹いて。


桜吹雪があたしの姿を隠す。


イッペー君に気づかれないまま。

もうあたしからもイッペー君が見えない。


一面のピンクに覆われたあたしは、桜吹雪を見上げて胸を押さえる。



――ああ、泣きたくなるぐらいキレイだなぁ



って、ただそう思った。