俺には最初、じいさんが決めた婚約者がいた。
高宮さくら
それが彼女の名前。
今でも思い出す。
桜が満開の日
温かい風が顔を撫でる。
普通の客はまず入れないような高級料亭。
無駄に広い部屋に比べて不釣り合いなくらい小さなテーブル。
俺の目の前に座る女は
背中まであるストレートの長い髪に
整った顔だちをしていて。
美しい着物を身にまとったその姿は
まさにヤマトナデシコと呼ぶにふさわしいくらい。
「俺には、最初から決めた人がいます」
じいさんに招かれた席で改めて見合いだと知った俺は
彼女と二人きりになるとすぐさまそう言った。
敬語を使ったのは初対面ということもあったけど、
さくらが俺よりも年上ということもあった。