雲一つない晴れた朝。
彼はいつにも増してすっきりとした目覚めを迎えました。

朝一番、執事が待ち望んでいた報告をくれたのです。


「そうかそうか。魔術使い様は、今日ここをお立ちか。王宮にお戻りなされるか」


ああ、よかった。これであの食事から解放される。

うきうきとした彼は、普段よりも朝食をゆったりと取り、身支度を整えてから、魔術使い様を見送る為に、そのお部屋を伺おうとしました。

その時、戸惑った顔をした執事がやって来ました。


「旦那様、街の女が目通りを願っておりまして」


「何だ、用件はお前が聞いておけばよいではないか」


「いえ、それがですね、妖精の涙を買ってもらえないかと申しておるのです」


妖精の涙?
彼は自慢の艶やかなひげに手をやり、考えました。彼のお父さんも、お祖父さんもたくわえていた、由緒あるひげなのです。


「どこかで聞いたことがあるな?
はて、何だっただろう」


「旦那様、宝石でございますよ。あの幻といわれる」


ああ! 彼は思い出しました。そう言えばそんな名前の宝石があると聞いたような気がする。