誰にも言えないと思っていたことが、こんなに簡単に、しかも初対面の男の人に言えるなんて…。

不思議な気持ちがした。

あたしは、ここにいてもいいんだなって、そんな安心感が、あった。

昨日の夜、パパの帰りを待って、独りでふとんにくるまってたのが、遠い昔のことのよう。

あんなに寂しかったのが、嘘みたいだ。

「はぁーい! まーいーっ!」

左に、単車を数台引き連れた、紫の特攻服姿の真紀ちゃんが並んだ。

オーガンジーのリボンが、風にたなびく。

街灯に透けて、青白い炎のようだ。

「真紀ちゃんも、つかまんなかったんだぁっ!」

窓から、身を乗り出して、声を張り上げた。

「たりめーじゃん!」

真紀ちゃんは、白い歯を見せて、笑う。

「真紀ちゃぁん。かっこいーっ!」

夜の闇と、爆音と、赤いテイルランプが、あたしを酔わせる。

まるで、眠っていた何かが目覚めてゆくような。

そんな気が、した。

そして、真紀ちゃんたちと朝方までバカな話とかして、さんざん笑って、辺りが明るくなり始めたころ、緒方くんの車で団地まで送ってもらった。

夜明けの道も、周りの風景も、うす紫色に染まっていた。

ピンとはりつめた空気が、肌にここちよかった。