「おぉ。逆瀬川、笹原の親、来てたか?」

佐伯は、思いだしたように、あたしに訊いた。

「え? 来てませんでした」

ありのままを、答える。

「そうか。しょうがないな。ま、とりあえず、笹原を呼んでくれ」

「はい」

教室を出て、廊下の待合い室をのぞくと、あれ? 誰もいない。

「真紀ちゃん?」

ちょっと声に出して呼んでみた。

返事はない。

「先生。真紀ちゃん、いません」

くるりと振り返って、報告した。

「なに? まったく、親が親なら、子も子だな…!」

にがむしを噛みつぶしたような佐伯の顔を見て、あたしは、吹き出しそうになった。

やっぱり、真紀ちゃんて、かっこいー。

従順に三者面談を受けるふりをして、自分の番でさっさと消えちゃうなんて。

あたしは、すごく、痛快な気分になった。

「ああ。いい。おまえは、帰っていいぞ」

「はぁい」

あたしは、平静をしっかりと装ったまま、おばちゃんと連れだって教室を出た。

真紀ちゃんは、あたしがやりたくても出来ないことを、いつも平気でやってのける。

すごいなって、思う。

真紀ちゃんみたいになれたら、きっと…。

あはは。

そしたら、パパも、おばちゃんも、あわてちゃって、たいへんだろうな。

あたしは、廊下を歩きながら、くすくすと、笑った。