カルマ

「もういいから、そいつらほっといて早くバス出発させろ!
これ以上限界だ!
そいつらを助ける為に、俺達までやられちまうぞ! 」

バスの中から、がなりたてるような声が聞こえてきた。

誘導していた男がすかさず答える。

「あんたはもうバスに乗ったからいいかもしれないが、あそこの坊さん達もまだ救うことが出来る!運転手さん、もう少し待ってやってくれ、頼む!」

「バスまで行けますか?」

優しい口調で僧が声をかけてくれた。

「えっ、あぁ。」

至近距離で襲われた恐怖により、腰が抜けたようになってしまったのだ。

事情を察した僧は、杉崎に肩を貸し、バスまで連れて行こうとしてくれた。

「あ、あの、彼は……。」

平井はうつ伏せに倒れた状態で、ビクッ、ビクッと体を震わせていた。

出血の量から見ても、先ほど首筋を噛まれた事で、致命傷を負ったのは、明らかであった。

「すみませんが、彼はもう……。」

僧が、悲しげな表情で言った。

誘導した男が手伝ってくれて、杉崎をバスの中に引き入れようとした瞬間だった。

「坊さん!後ろ!」

誘導した男が叫んだ。
感染者と成り果ててしまった平井が、僧を襲おうとしていたのだ。